深愛

「何かひとつのことに向き合っていくとき、純粋さにかなうものはない」（118頁）

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投稿者：yukkiebeer　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　現在NHKで放送している二つの海外ドラマ（教育テレビ『iCarly』とBSプレミアム『glee』）の日本語吹き替え版に出演している声優・水樹奈々の自叙伝ということで手にしました。
　まだわずか31歳の彼女が自叙伝というほどのなにものを持っているのか、と訝る向きもあるかもしれませんが、その歩んできた人生のなんとも濃厚なさまを読むにつけ、強く心打たれました。

　歯科技工士の父親に5歳の頃から演歌のスパルタ的歌唱指導を受けた幼少期。
　瀬戸内で天才演歌少女として知られ、東京からのスカウトに発掘されて上京した中学時代。
　堀越の芸能コースに通うも、仕事がなくて食べるのも困るほどの貧困を味わい、打開策として奨学金を得るため猛勉強した高校時代。
　所属事務所の倒産という危機を救ってくれた居候先の先生が、やがて著者の人生の障害となっていく誤算。
　目指していた演歌歌手ではなくアニメ声優として一歩を踏み出した転機。
　2009年には紅白歌合戦に出場するも、その一年前に最愛の父親を亡くした無念。

　声優としてアイドル的存在にある著者の、なんとも波乱に富んだこうした道のりを読むと、20世紀の末にまだまだこうした苛酷な人生を歩んだ少女がいたのかと胸ふさがれる思いがします。

　それでも彼女は自分の人生に、そしてそこで出会ったすべての人に、深い感謝の念を忘れません。
　「彼らの情熱なくして今の水樹奈々はない。それぞれの情熱が私の状況を少しずつ動かしてくれた。誰ひとり欠けてもこの人生は成り立たなかった。すべてが出会うべくして出会った人たちだったから、私にとってはみんなが大切な人。」（145頁）
　
　「前例なんていらない」（223頁）。
　そう胸を張って生きる著者の姿が清々しい一冊です。